マンガ原作者のお仕事 第7回 三条陸と「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」

三条陸の脚本と「ダイの大冒険」の完成原稿。(c)三条陸、稲田浩司/集英社 (c)SQUARE ENIX CO., LTD.

なぜマンガ原作者という仕事を選んだのか、どんな理由でマンガの原作を手がけることになったのか、実際どのようにマンガ制作に関わっているのかといった疑問に、現在活躍中のマンガ原作者に答えてもらう、“マンガ原作者の仕事”にスポットを当てた当コラム。原作者として彼らが手がけたプロット・ネームと完成原稿を比較し、“マンガ原作者の仕事”の奥深さに迫る。

第7回には国民的ゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズをもとにした大ヒット作「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」および「勇者アバンと獄炎の魔王」の原作者として知られる三条陸が登場。特撮ドラマ「仮面ライダーW」と、その続編マンガ「風都探偵」の脚本なども手がけ、マンガ原作だけにとどまらず幅広く活動する三条の仕事をまとめた「三条陸 HERO WORKS」が5月19日に刊行された。そんな三条に“マンガ原作”という仕事の醍醐味を明かしてもらった。

構成 / 増田桃子

「ダイの大冒険」の脚本について

見ての通り、当時は直筆で原稿用紙に原作を書いていました。現在ではさすがにPCですが、手書きには手書きなりのよさがあって、特にマンガ家さんにテンションが伝わりやすいのが長所ですね。決めの大ゴマで叫ぶようなセリフは2、3行ぐらい使って大きく書いたり、わざと文字を荒々しく書いたりして「ここは気合い入れてます!」というのを伝えたりしていました。また細かい注釈やマンガにする際のポーズなどのアイデア提案も用紙の欄外に落書きのように描き込めたりもするので便利です。
この回は親友ポップの死にダイの怒りが爆発する、全編の中でも特大級のテンションの回なので、勢いが勝負でした。稲田浩司先生の完成された画面にも引き込まれるようなパワーが溢れていて、先の展開を知っているのに続きが見たくなりました。

マンガ原作者として仕事を始めるに至った経緯

大学時代までは普通にマンガを描いていました。その中で「いろいろな経験をしないと結局面白いマンガは描けないのではないか」と思うようになり、さまざまなジャンルに首を突っ込んで、雑誌のライターやアニメの脚本などチャンスをいただけた仕事には片っ端から挑戦しました。卒業後、週刊少年ジャンプの記事を執筆していた際、「君、ストーリーも書けるんだろう?」とお声がけをいただき、その後「ダイの大冒険」が長期連載作品となったために気が付くと一番メインの仕事がマンガ原作者になっていました。1周回ってマンガの世界に戻ってきていただけなので「マンガ原作者になろう!」と思ったことは実はないのです。

原作担当として最もこだわっている作業

「キャラ設定」や「シリーズ構成」的な部分ですかね。原作そのものよりも、描き始める前の準備部分です。普通マンガはマンガ家さんと編集担当さんの2人で作り上げるので、いわばタッグとかバディみたいな関係だと思いますが、ここに原作者が入って3人になった途端に「チーム」になります。なのでみんなで意気投合してやっていくためのロードマッピングがちゃんとできるかどうかが重要だと思っていて、そこは原作者の責任分野だという認識です。
現在3本連載を持っていますがどれもコミックス1巻分ぐらいのシリーズ構成と登場キャラの設定案をみんなで固めてからスタートしています。ここで「おっ、今回の章も楽しそうだ」と思ってもらうことが自分的には一番大事にしている工程です。

マンガ原作者という仕事の魅力

やっぱりマンガ家さんと手が合って作品が跳ねたときの快感に勝る魅力はないと思います。
マンガ家さんは1人でもマンガを生み出せるけど、マンガ原作者は1人じゃ何もできません。でも文書であれネームであれ原作者が作ったストーリーが先にあって、そこをスタートラインにしてマンガ家さんが描いていくわけですから、その気になってもらえるものを出していきたいといつも思っていますし、その影響が少しでもマンガ家さんから感じられたら天にも昇る気持ちになります。
1人で描いていくマンガではない、人と人とでつないでいくマンガが原作者つきのマンガであり、そこでしくじるときもあるけれど、うまくいったときのうれしさもまた格別だと思いますね。

マンガ原作者を目指す人へのメッセージ

うーん、難しいですね。これ、よく話すことなんですが、ぼくはマンガ原作者って基本的に絶対必要な人種じゃないと思っているんです。マンガ家さんと編集さんだけで作れるなら不要な人間だし、実際多くのマンガがそうしてできているはずです。原作者はマンガ作りの「助っ人」です。だからこそ、わざわざ呼んでもらっただけの価値を発揮しなければいけないな、と常に思って取り組んでいます。
そのためにはマンガ家さんや担当さんが知らないようなジャンルのこと、コアな知識などをたくさん抱えた知恵袋のような人間であることが理想です。だから「マンガ原作者をめざそう!」とマンガ一筋に突き進むことはあまり効果的でない気がするんですよね。
「マンガ原作」というのはあなたの描きたいストーリーを表現するためのただの「手段」の1つであって、それで作品を生み出せば結果「マンガ原作者」になるけど、ほかの表現手段をいろいろ吟味しないでマンガ原作者という人種になろうとするのは違うと思うよ……ってことですかね。

三条陸(サンジョウリク)

1964年10月3日生まれ、大分県出身。1986年にOVA「装鬼兵MDガイスト」でアニメ脚本家デビュー。1988年にスーパーボンボン(講談社)に掲載された「デカトラおやこ」にてマンガ原作者デビューを果たす。稲田浩司とのコンビで発表された「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」のほか、代表作として「勇者アバンと獄炎の魔王」「冒険王ビィト」「風都探偵」などがある。また「デジモンクロスウォーズ」「仮面ライダーW」「仮面ライダードライブ」など、アニメや特撮の脚本家としても活躍する。これまでの仕事をまとめた「三条陸 HERO WORKS」が5月19日に刊行された。